1. 江戸時代から我が国の外食文化は発展

日本の外食史をふり返ると、江戸時代前期に起こった浅草金竜山の奈良茶飯の店にはじまり、後期には八百善に代表される高級料亭も誕生。また、握り鮨やてんぷらなど、日本料理を代表する数々の料理を提供する店が現れたのもこの時代であった。

明治以降は多くの西洋文化が渡来し、すきやきやカレーなどの料理が登場し、 大正時代にかけて、和洋の料理店が共に繁栄していく。

戦後の食糧困難期を経て、人々の生活も向上し、一般家庭でも西洋料理や中華料理などが食べられるようになり、食生活は多彩になっていく。しかし、外食元年と言われる1970年までは、サラリーマンが仕事で得意先を接待する場などを除けば大部分の人にとって、外食はハレの行事であった。

1970年代初頭になると、日本の外食は産業化の道を歩み始める。

70年に国立市にすかいらーく1号店が誕生。71年にはマクドナルド1号店が オープン。その他、ミスタードーナツ、ケンタッキーフライドチキンの1号店もこの年にオープンしている。外食産業が成長し、外食が日常の一部になることによって、外食はレジャー化・娯楽化が進み、多様な業態が生まれた。

また、この時代、多くの外食企業は多店舗化を目指し、チェーンストア理論に基づくチェーン経営が取り入れられていく。それまでの外食の世界では本店から「のれんわけ」を受けて、本店から一部資産やノウハウを譲り受け、支店として 自由度のある経営を行なう方式が一般的であった。

それに対してチェーンストアは本店と支店という関係ではなく、本部と同一チェーンの対等な店舗という関係性をとっており、本部で原材料等を一括仕入れして経済的メリットを追求し、セントラルキッチンで1次加工を行ない、効率的な物流網を整備していった。逆に現場では店舗内加工を削減して効率化し、店舗側では本部の決めたスタンダードに基づいて運営することにより、チェーン店舗間でのばらつきをなくし、効率性を追求。商品やサービスの品質を標準化してチェーン全体の生産性向上を実現させていった。このチェーンストアの発展 によって、安価で高品質な商品が提供できるようになり、サービスレベルが向上し、ファストフードやファミリーレストランのように一般大衆でも気軽に利用できる外食店が増え、外食産業の成長を下支えしていったといえる。

1970年および80年代は外食産業の成長期であったが、90年代になると成長が鈍化し、市場は成熟期に入る。そのような中、競争は激しくなり標準化から差別化の時代へと変遷していく。

差別化のために、業態が細分化され、さまざまな分野の専門店が生まれ、また日本経済全体においてデフレが進む中、外食産業においても価格競争がし烈になり、コスト管理も非常に厳しくなっていった。

さらに現在、マーケットは「どこでも食べられるもの」を求めず、個店のような雰囲気とメニュー、すなわち「そこでしか食べられないもの」に価値を見出す傾 向が強くなっており、かつてのチェーン理論では太刀打ちできない状況になりつつある。

2. 外食産業におけるホスピタリティの重要性

このように市場の競争が激しくなる1990年代中ごろから、外食産業内でもホスピタリティの重要性が叫ばれるようになっていく。

外食産業は参入障壁が低く、模倣性が高い業界とも言われ、繁盛店が生まれると、すぐに模倣業態が多数生まれ、模倣産業とも言われている。

すなわち、業態やメニューや商品、店舗デザインといったハード的な要素はすぐに真似されることが想定されるので、企業経営においては模倣が最も難しいと言われる「接客力」の向上に取り組む必要性が見いだされていくのである。

産業が成熟化し、安価で高品質な外食チェーンが発展することによって、外食産業全体のサービスレベルも高まった。すると、いわゆるマニュアル的なサービスでは差別化ができず、ホスピタリティが注目されるようになっていくのだ。

しかし、一方でコスト競争も厳しく、外食産業においてはパート・アルバイト の活用が進み、現在のパート・アルバイト比率は9割程度とも言われており、他の産業と比較しても非常に高い比率となっている。 つまり外食産業においてはパート・アルバイトの戦力化が非常に重要で、彼らがホスピタリティを発揮できるかどうかが企業における人材育成ノウハウとして大変重要になってきている。

店舗におけるOJTを中心としたトレーニングのみならず、マクドナルドのハンバーガー大学のように、さまざまな企業内教育の制度を充実させる企業も増えているが、多くの企業ではコスト競争の厳しさから、十分な教育投資をできていない。また、採用においても、外食産業は慢性的に人不足が続いていて、給与水準も他業界に比べても低いという現状から、ホスピタリティの素質を兼ね備えた人材を厳選して採用するのが難しい現実もある。

2019年末から世界中を襲ったコロナ禍により、外食産業も大きな打撃を受けるとともに、生活様式の変動に伴い、営業時間や、アルコール比率の変動など、利用のされ方が変化するとともに、テイクアウト、デリバリーの普及によって、顧客接点による差別化の重要性が高まるとともに、デジタル技術の活用(セルフレジ、セルフオーダー、配膳ロボット)など顧客接点が変動するなかで、人が接客をすることの価値による差別化は、店舗に対する印象に大きく影響をあたえるなど、よりホスピタリティの発揮による差別化の重要性が高まり、多くの企業が取り組みを実施している。

3. CS・ES両側面からの効果

このような産業の特性からも、外食産業においては現場スタッフへのホスピタリティ教育を行なう前提として、スタッフのモチベーションを高め、スタッフ の定着率を高めることで人員の安定化とスキル向上を達成しつつ、接客の楽しさを感じてもらうことが重要になっている。

接客の楽しさを理解したスタッフにおいては、個々の仕事に対するやりがいが高まり、結果として従業員満足度が高まる傾向も強い。すなわち、外食産業におけるホスピタリティ力アップの取り組みは顧客満足(CS)と従業員満足(ES)の両面にメリットのある施策として重要といえるのだ。

現在、それらを促す仕組みとして、企業内では接客コンテストや、店舗での顧 客満足の改善活動の成果発表会、さまざまなインセンティブ制度など、モチベー ション向上策と合わせた取り組みを行なう企業が増えてきている。

また、顧客アンケートやミステリーショッピングリサーチなどによる顧客満 足度の定量化を実施し、それらをもとにした現場のホスピタリティの改善活動 に取り組む企業も増えている。

執筆者 

JHMA特任講師、
株式会社MS&Consulting マネージャー
角 俊英